吸血懺鬼ヴェドゴニア(モーラエンド後:香織)
「……太ぁ……」
フッと視界が白くなり意識が戻る。
目を開けた香織は、ボーッとした頭を堪えつつ体を起こす。
「また、この感覚……」
何か夢を見ているらしいのだが、起きると何の夢を見ていたのか全くその記憶がなくなっている。思い出そうとしてもどうしても思い出せない。ただ決まってその夢をた後は頭の奥が痛むだけだった。
もう一つ。この夢を見た後では必ず香織は泣いていた。何がそんなに悲しいのか自分自身にも全く見当がつかない。ただ涙だけが流れていた。
しかし、不思議な事に、この夢の後の気持ちは切なくなるが不快ではなく、絶対にこの感じを忘れてはならないと思わせるようなそんな気持ちであった。
高校3年の頃はこの感覚が香織を悩ませ続けてきた。悩んだ挙げ句に精神科に相談し病院通いを始め、その甲斐あって最近ではそう頻繁に起る現象ではなくなっていた。そして、それは香織の望んでいた事のはずであった。
しかし、それが薄れれば薄れるほど今度はその感覚を忘れてはならない。大切な物が失われてしまうと言う気持ちが膨れ上がってきた。そして、そのわだかまりの中で香織は精神科通いをやめた。
それでも、あんなに頻繁にあった物が今は3ヶ月に1回あるかないかの事になってしまって、薄れていくのが自分でも分かるようになっていた。香織はそうならない用に何度も思い出そうと試みたが全く思い出せなくて、今度はそれが辛くて泣いてしまう。
「何なのよ。馬鹿ぁ……」
ひとりでにその言葉が出てくる。香織はその言葉と共に誰かを思い出した気がした。確かに誰かに対してその言葉を言っている。しかし、やはりそれが誰だかはまったく分からない。必死になって思い出そうとする。
「香織、いい加減に起きないと遅刻するわよー」
母親の声で思考は中断された。何かが……と思ってもう少し考え様とするが、もうそれは既に手から抜けた後のように何も思い出せない。そして、諦めたように首を振って立ち上がりカーテンを開け、近くのアパートを無意識に見つめていた。
後書き。
惣太の記憶を封印された後の香織のお話です。このエンドのお陰で香織はヴェドゴニアで一番好きなキャラクターになりました。惣太を思い出しても出さなくても辛いエンディングとなる事でしょう。可哀相ですが……。
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