吸血懺鬼ヴェドゴニア(モーラエンド後:モーラと惣太)

(左か!!)
と思ったと同時に惣太は銃を乱射する。
「グギャ」
と泣き声とも悲鳴とも違う奇怪な音が聞こえ、手応えがあった事が分かる。
惣太は相手のダメージの深さを確かめる為に慎重に、しかし素早く近づいていった。

何か原形をとどめていない肉片と、それがもとあっただろう体が見える。
それは既に物としての機能しか果たさない事は誰の目にも明らかだった。
一息ついた所で奥からガサッと言う音と共に一人の少女が現れる。
少女の手にはまだ死んでから間もないだろう怪物の頭があった。

「そっちも終わったのか」
と惣太が尋ねると
「ええ……」
と言葉少なに答える。

(いつまでこんな事を繰り返すのだろう……)
モーラは思うがその答えは未だに見つからない。
約束の日が10日、2ヶ月、半年と過ぎていってしまった。
(もう、惣太は狂ってしまったのかもしれない)
そう言う思いがいつも頭を過ぎるようになっていた。
(やっぱり、私と来るべきではなかった)
とも思う。しかし、今更引き返す事は出来ない。
既に時は過ぎ去ってしまったのである。

「次は、ここだな……」
と言って惣太は地図を広げる。
その横顔は紛れもなく兄フリッツと同じであった。

「惣太……」
モーラは声をかけるが惣太には聞こえていない。
惣太は地図を見ながら
「これが終わったら、南の島で休暇を取ろう」
と言う。

何度同じ事を聞かされただろうか。
いつもこれが終わったらと言い、そのくせ、終わるとすぐにバンパイアの塒の情報を仕入れている。 その繰り返し。繰り返しでもう3年にもなる。
当初の約束は既に消えていた。

モーラは惣太の前から姿を消す事も考えたが、そうしたらきっと惣太は一人で無茶な狩りを始めそうで恐かった。惣太には生きていてもらいたい。そう思っているのだがこのままの生活では先は長くないだろう事も予想される。
何度かもう狩りをやめる事も提案したが、惣太は
「何を言ってるんだ。奴等が人間に対してやっている仕打ちを黙って見逃せと言うのか?モーラだって奴等を根絶やしにする事が目的だったじゃないか!」
と言われてしまう。

兄そっくりになってしまった……そう思うと悲しくなってくる。しかし、モーラに涙は出なかった。そのかわりに、
「行きましょう……」
と、惣太に声をかける事しか出来なかった。



後書き
ヴェドゴニアのモーラエンディング後です。ネタ的にはやはりベタですが一番相応しいかなと思いました。結局人間が正常な精神でヴァンパイア狩りなど出来ないと言う話です。フリッツになってしまうのが普通なんでしょう。モーラも可哀相ですが同じ事を繰り返してしまったのです。


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